私たちは外側の刺激を感じて、それに対して意識が働きます。 これを感覚といい、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚などのことです。
これら5つを五感といいます。
私たちは何か理由がない限り、目で見て、耳で聴き、鼻で嗅いで、舌で味わい、皮膚で触れ、さまざまなものを認識し、危険を察知したり、コミュニケーションをとったりして、普段外の世界とつながっています。
そうやって五感を正しく使うことで、心身の調和をとったり、不調を防いだりと役立ちます。
今回は五感の中でも、「聴覚」を使って心身の調和をとる方法をお伝えしたいと思います。
目次
五感と聴覚
五感の中で、音に対する感覚は聴覚です。 音はこの聴覚を刺激するもので、耳はその刺激を受け取る感覚器(聴覚器)です。
聴覚の鋭い方だと、遠くの地鳴りの音で地震を感知できたり、電話の相手の声のトーンでその方の体調が分かることもあるそうです。
音と音が聞こえる仕組みとは一体どういうものなのか?
では、音が聞こえる仕組みとはどういうものなのでしょうか?
私たちが一般的に耳と呼んでいる部分は、耳介(じかい)といいます。 そして耳の穴から鼓膜までのことを外耳(がいじ)、その奥を中耳(ちゅうじ)、さらにその奥を内耳(ないじ)といい、3つの部分からなっています。
そもそも音とは空気の振動であり、空気中を伝わる波動です。 ただし、振動は何もないところで起こるわけではありません。 物体に何らかの力が加わり、その物体が振動することによって周りの空気振動が起こります。
物体に力が加わったとき、物体の形が変形し、またもとに戻ろうと動きます。 もちろんその動きが目に見えるとは限りません。
このとき、周りの空気の密度に濃い(密な)ところと、薄い(疎な)ところができますが、この疎と密が周期的に繰り返されることによって、「波動(疎密波)」が外耳まで届く仕組みです。
つぎに鼓膜を振動させます。 そして、その奥にある中耳のツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨へと振動を伝え、さらにその奥、内耳の蝸牛(かぎゅう)の振動になります。
蝸牛の中はリンパ液で満たされていて、液体の振動になります。 蝸牛内部の働きで、振動が電気信号に変わり、聴覚神経から脳へと伝わり処理され、はじめて音として認識されるのです。
この、脳へと伝わった最初の反応が感覚です。
つぎに知覚が働き、さらにそれが何の音であるかを今までの経験などから導き出し、認知します。
そして最後に「心」が感じます。
間違った聴覚の使い方と、正しい聴覚の使い方
「五感は正しく使うことで、心身の調和をとったり、不調を防いだりと役立つ」と先ほどお伝えしました。 では『聴覚』の間違った使い方とはどういったものなのでしょうか。
例えば、大きすぎる音を聴く、怒鳴り声をあげる、雷の音を聴くなどがあげられます。
電車の中で、ヘッドホンやイヤホンの音を大きくして聴くことや、ライブで爆音を聴いたりすることは、耳を酷使している使い方です。
大声で話しかけられないと聴こえないくらいの音は、騒音レベルとなるからです。
もし、こういったことが頻繁に続いてしまうと、難聴になってしまう恐れもあるので注意が必要です。
仕事柄、もしくは音楽が好きで日常的に大きな音を聴いているという方は特に、しっかりと耳を休ませてあげましょう。
一方、落ち着いた音楽を聴くことや、きれいな言葉を使うことは、正しい聴覚の使い方です。
ここでは、音楽についても少し触れたいと思います。
正しい聴覚の使い方、音楽について
空気を震わせ私たちの耳に届く波動のひとつに、音楽があります。 例えば、打楽器であれば表面に衝撃を与えることによって、ギターなら弦を弾くことによって空気を振動させます。
音楽と聞いて、どんなことが思い浮かぶでしょうか。
音楽には多種多様なジャンルが存在し、思い浮かべる音楽も様々ですね。 クラシックを思い浮かべる方や、ジャズを思い浮かべる方もいるでしょう。
また、「音の芸術」や「人間が組織的に関与した音響表現」「楽しむための音響表現」という表現を思いつく方もいるかもしれません。
あるいは、「音楽の3要素*」を連想される方もいるかもしれません。
これらの要素をどう組み合わせるのかによって、私たちの心が動かされる音楽ができます。
*音の3要素とは、メロディー、ハーモニー、リズムです。
音楽の効果
では音楽は、具体的に私たちにどんな影響があるのでしょうか。
元気がないとき、落ち込んだとき、悲しいときなど、音楽に寄り添ってもらい、励ましてもらったという経験のある方は多いと思います。
このように音楽は、励ます、勇気づける効果だけではなくて、その他にも脳を活性化させたり、不眠、血圧のバランス、イライラ、ストレスなどに対して有効であるとされています。
また音楽には、自律神経を整えてくれる働きもあるのです。
自律神経とは?
自律神経は、私たちの心臓や腸などの臓器をコントロールしてくれている神経で、交感神経と副交感神経からなります。
交感神経は、私たちが活動状態のときに活発に働き、反対に副交感神経は、リラックス状態のときに活発に働きます。
交感神経と副交感神経は、お互いに相反する働きをしており、これらがバランスを取り合って、私たちの円滑な生命活動を支えてくれています。
ですが、日々忙しくストレスを感じることも多い現代社会では、交感神経が過度に優位になり、イライラしたり興奮状態になりやすくなってしまいます。
このような状態が長く続くと、血流の悪化により手足が冷えたり、免疫力が下がり病気になりやすくなったり、心身の不調につながってしまうとされています。
環境的な要因もそうですが、年齢を重ねるとどなたでも交感神経が優位になりやすいとされています。 そこで、副交感神経を刺激して、調和をとってくれる音楽の出番です。
音楽は私たちにとって、身近にある音です。
心身の調和をとるために、自律神経によい効果を与えてくれる音楽を取り入れるといいですね。
調和がとれる音楽ってどんなもの?
では、どんな音楽が調和がとれるよい音なのでしょうか? 讃美歌やクラシック、またはモーツァルトを想像される方も多いかもしれませんね。
ですが、あまり難しく考えず、自分の好きな音楽でいいのです。 それは、好き嫌いや心地よさなど、人によって音楽に対する感じ方はそれぞれ違うからです。
とはいえ、わざわざ音楽を聴いたり、聴きに出かけたりすることが億劫とかわずらわしいと感じる方、そもそも音楽に興味がない方は、自然の音でもいいのです。
例えば、鳥のさえずり、川の流れる音、木が風にゆれる音や虫の声など、自然の音は、私たちに安心感を与えてくれます。
私たちは自然の一部です。
季節を感じ、自然のリズムに気づき、自然と調和することはとても大切で、私たちに素晴らしい恩恵を与えてくれます。
あなたにとって心地いい音ってどんな音?
ですが、ひょっとすると自然の音が聴こえていない方もいるかもしれません。
というのも普段私たちは、聴きたい音だけを選んで聴いているそうです。
それは、耳から入ってきた音を、脳が自分にとって必要な音か、そうでないかを判断しているからだそう。
自然の音が聴こえるということは、それだけ心に余裕があるということなのかもしれませんね。
ここのところ慌ただしく過ごしていたという方は、雑務や忙しさから少し離れて、外に出てゆっくり深呼吸をしてみましょう。
あなたの耳には、どんな音が届くでしょうか。
あなたが心地よいと感じる音は、どんな音でしょうか。
正しい聴覚の使い方、言葉について
音楽のほかに、私たちの声や言葉も振動しています。
私たちが呼吸をしているときは、喉の声帯は開いています。 ですが、声を出そうとしたとき声帯は閉じ、肺から送られてきた空気によって振動します。
ですが、この振動だけではまだ声にはなっていません。 このときに、舌や口を様々な形や大きさなどに動かすことによって、声になるのです。
普段どんな言葉を、声に出しているでしょうか。
先ほど、聴覚の正しい使い方として、きれいな言葉を使うことをお伝えしました。 よい言葉がよい影響を与えてくれるのは、言葉を発した本人だけではなく、相手にも同様です。
言葉も波動として相手の耳に届き、脳で処理され、そして心が動きます。
相手にどう受け止められるのかということは、ときに人間関係において大切な要素です。
きれいな言葉や、前向きな言葉を使うためには、日頃から穏やかな心の状態であることが必要だと思います。 そうすると、相手の言葉を受け止め返答する時も、発する言葉が変わってきますよね。
音を使って毎日を豊かに
ときとして、自分の意志とは関係なく、不快な音に刺激されることがあると思います。 ですが、できるだけそのような音を避けたり、自分が心地よいと感じる音を選択することはできます。
また、その時々の状況や感情によって、心地よいと感じる音は変わります。
たくさんある音の中から、心地よいと感じる音は自分にしか分かりません。 そのため都度、自分の内側の声に耳を傾け、心身が欲しているものを探ることは大切です。
そして、自分から発する音もまた、選択できます。
自分が発する言葉を、一番初めに耳にするのは自分です。 他人を傷つけるような言葉は、自分自身も傷つけることになります。
自分にも他人にも優しくあるために、普段からきれいな言葉を使う習慣を身につけたいものです。
聴覚を正しく使い、まずは心身の調和をとることを意識してみましょう。 そして自分から発した音が、周りの人たちにも心地よいものであれば、自分自身や他人との関係をよりよい方向へと導いてくれることでしょう。
豊かな毎日を過ごすための選択肢のひとつとして、正しい聴覚の使い方を取り入れてみてはいかがでしょうか。
参考文献:
『五感の力 未来への扉を開く』 グラバア俊子、創元社
『音の正体』 布施雄一郎、シンコーミュージック・エンタテイメント
『これだけ!高校物理 波・音・光 波動編』田原真人、秀和システム
『よくわかる 最新 音楽の仕組みと科学』岩宮眞一郎、秀和システム
『免疫力を高めるアマデウスの魔法の音』 和合治久、アチーブメント出版
『聞くだけで自律神経が整うCDブック』 小林弘幸、大矢たけはる、アスコム
『耳は1分でよくなる!薬も手術もいらない奇跡の聴力回復法』 今野清志、自由国民社
『考えない練習 頭で考えずに、もっと五感を使おう。すると、イライラや不安が消えていく』 小池竜之介、小学館