豆味噌って、なに?
普通のお味噌とどう違うの?
という方のために今回豆味噌についてご紹介しています。
豆味噌作りで使う豆麹は見た目から大変興味深いものです。下記に画像も掲載しているのでぜひご覧ください。
目次
豆味噌ってなに?豆味噌の特徴
豆味噌とは、いわゆる「赤味噌」「八丁味噌」と呼ばれている味噌のことをいいます。愛知県で有名な味噌カツや味噌煮込みうどんなどにも使われているあの赤い色の味噌(実際は、赤というより黒に近い濃い茶色)です。
※一般的に熟成期間が長く色が濃い味噌の総称を赤味噌といいます。
豆味噌は、愛知県や岐阜県、三重県などの東海地方で昔から食べられているこの地域特有の味噌で、米味噌や麦味噌と異なり、大豆のみで作るという点が特徴的です。また熟成期間が半年~2、3年と長いことも豆味噌の特徴です。徳島県で食べられている「ねさし味噌」は東海地方の豆味噌をルーツに持つとされています。
※ねさし味噌とは、豊臣秀吉の家臣だった蜂須賀正勝・家政父子が尾張(現在の愛知県西部)から阿波国(徳島県)に移り住んだことをきっかけに、東海地方の豆味噌の製法が徳島に伝わり作られるようになった味噌です。また、徳島は大豆を生産が盛んだったことも豆味噌が作られるようになった理由の一つ。「ねさし」とは「寝かせる」という意味の方言。長期間熟成させて(=寝かせて)作ることからねさし味噌と呼ばれるようになりました。
豆味噌は大豆のみで作る
米味噌や麦味噌と違い、豆味噌は大豆のみで作られているとご紹介しましたが、味噌作りがはじめてという方や興味があるけれど作ったことがないという方のために、各味噌の材料や作り方を簡単にまとめてみました。
- 米味噌・・・米麹、大豆、塩で仕込み、発酵熟成させます。主に、九州以外の日本のほとんどの地域で食べられている味噌です。
甘口~辛口まであります。熟成期間も浅いものから1年以内のものが一般的です。 - 麦味噌・・・麦麹、大豆、塩で仕込み、発酵熟成させます。主に九州地域で食べられている甘めの味噌です。熟成期間も浅く、味噌の色も淡い(白っぽい)のが特徴的です。ほかの味噌同様、熟成期間が長くなるにつれ、少しずつ色は赤っぽく濃くなります。
両者ともに、大豆を主原料として作られているという点では同じです。では、豆味噌はというと
- 豆味噌・・・大豆(豆麹)、塩、水で仕込み、発酵熟成させます。主に東海地方で食べられていて、熟成期間が長く色が濃いのが特徴です。そのほかの味噌よりうま味が強い。
米味噌・麦味噌は、麹と大豆を使用するのに対し、豆味噌は、豆麹=大豆のみを使用します。
では、調合味噌(合わせ味噌)はどうなの?というと
- 合わせ味噌(調合味噌)・・・それぞれの味噌を2種類以上混ぜ合わせたり、複数の麹を混合して醸造されたものをいいます。
豆麹ってどんなもの?ほかの麹との違い
こちらは、愛知の桝塚味噌さんの豆麹
豆麹と一般的な麹、何がどう違うの?と気になる方も多いと思います。
ごつごつしていて苔の生えた石のようなもの。これが「豆麹」の正体です。内側は濃い茶色ですが、表面は白~少しみどりがかった色をしています。大豆を蒸すことによってこのような濃い茶色になります。
こちら一般的に多くの人がよく知っている米麹の写真
写真からも伝わるように、米味噌を仕込むときに使用するよく知られている「麹」とは見た目もまったく別物です。
米麹や麦麹は蒸した米や麦一粒一粒に麹菌が繁殖し、上記写真のような状態になったものをいいますが、豆麹は、蒸した大豆をおむすびのように丸く固くお団子状にした(これを「味噌玉」と呼ぶ)ものに種麹を付け培養させたものをいいます。
それを潰して塩と水を混ぜ仕込み、発酵熟成させたものが豆味噌になります。
写真の豆麹は大きめのものですが、味噌玉は小さいもの(2cmほど)から大きいものまであります。
また、豆麹は昔おやつとしても食べられていたそうです。
実際、仕込み時にほんの少しいただいてみました。お芋のようなほくほく感があり、くせもなく食べやすい味です。香りはずっしりとしたウッディーなワインのような香りと感じる人もいれば、パンのにおいがするという人もいます。嗅いでみると分かるのですが、発酵食品特有の香りがします。
米麹や麦麹をそのまま食べるということはないので、大変興味深いですよね。仕込む機会がある方はぜひ、食べてみてください。
豆味噌は、朝鮮半島から伝わった。日本古来の味噌との違い
ここまでご紹介したとおり、米味噌や麦味噌とはまったく違う豆味噌。
実は、豆味噌は日本古来の味噌ではなく、大昔に朝鮮半島から高麗人によって日本に持ち込まれ東海地方に根付いたということが、2013年10月愛知県で開催された考古学会『東海学シンポジウム』で「東海の豆味噌文化」として報告されています。
日本古来の味噌は、醤油と深く関係していて中国から伝わった「醤(ひしお)」がもとになります。『大宝律令』(701年)には、『未醤(みしょう)』という言葉が見られるそうです。この「みしょう」が「みしょ」→「みそ」という風に変化したといわれています。これが、のちのち醤油と味噌にわかれます。
古くは、味噌はとても貴重なもので庶民が口にすることはほぼなく、鎌倉時代にようやく武士の食事として味噌汁が食べられるようになりました(「一汁一菜」が鎌倉武士の食事の基本)。
また、戦国武将が戦に向かうときに保存が効き重要なたんぱく源となり、栄養価の高い味噌が重宝され、戦国武将の活躍とともに味噌の生産も本格的になっていきます。「信州味噌(武田信玄)」「仙台味噌(伊達政宗)」「豆味噌(豊臣秀吉、徳川家康)」のように、名だたる戦国武将のゆかりの地では、今でも有名な味噌がたくさん残っています。
それから江戸時代に入り、味噌が庶民にも広まり、一般的なものになっていきました。
一方、豆味噌ですが、中国にあった「メジュ」と呼ばれるものが朝鮮半島に渡り、それがカンジャンやコチュジャン、テンジャンになり、そのメジュが日本に持ち込まれ味噌玉作りになったとされています。
中国の「醤」が朝鮮半島に伝わってそこで味噌玉式の味噌に変わり、それが日本の若狭あたりに伝わって、近江、飛騨を経て東海地方で発展した、ということになる。そして、この味噌玉式豆味噌の製法は、今でもこのルート上に残っていて、美味しくて、体力の付く味噌を供給しているのである。
小泉武夫著『醤油・味噌・酢はすごい』三大発酵調味料と日本人
このように発酵の第一人者 小泉先生の書籍の中でも書かれています。さらに、メジュの作り方は味噌玉の作り方とまったく同じだということです。
研究者たちの調査によって、豆味噌は日本で生まれたものではなく、中国から朝鮮半島に渡り、メジュの製法が高麗人によって日本に持ち込まれ伝わり、それから日本で味噌玉作りがはじまった、という説がほぼ確実になっています。このことからも豆味噌とほかの味噌の違いがわかると思います。
豆味噌やそのほかの味噌についてもっと詳しく知りたいという方は、小泉武夫先生の書籍でもご紹介されているので、ぜひ一読をおすすめします。当サイト主催 豆味噌作りでレクチャーくださる蔵元桝塚味噌さんもこの本の中で紹介されています。
醤油・味噌・酢はすごい – 三大発酵調味料と日本人 (中公新書)
豆味噌のおいしい食べ方
以前、豆味噌のおいしい食べ方を蔵元桝塚味噌四代目にお聞きしたところ、豆味噌はよく煮込んでいただくことが多く、煮込むことで旨味やコクが増し、よりおいしくいただけるそうです。
お味噌汁を作る場合、味噌はいったん火を止めてから入れるのが一般的です。それは、沸騰直前が一番香りがよく、味噌をおいしい状態でいただけるからなのですが、それとは反対で長時間煮込めば煮込むほどおいしくなるのが豆味噌だそうです。また、肉や魚のもつ旨みを相乗的に高め、調和のとれた味にしてくれる特性もあります(愛知の豆みそ公式サイトより)。
スープや煮込み料理に
豆味噌の本場愛知県では、味噌煮込みうどんや味噌カツなど実際によく煮込んだ料理に使われている豆味噌ですが、トマト系のスープやお肉の煮込み料理などに隠し味として入れると、コクや深みがアップするのでおすすめです。
生野菜との相性も抜群
煮込み料理のほか、野菜スティックなどとも相性抜群です。夏はもろキュウに添える味噌としてもぴったりです。
豆味噌の仕込み方(作り方)
豆味噌の材料は、豆麹・塩・水です。
豆麹を丁寧に潰して、そこに塩を混ぜ、水を混ぜ、そのほかの味噌の仕込みと同じ要領で容器に詰めていきます。これで仕込みの完了です。
仕込んだ味噌は、1年半ほど寝かします。実際に豆味噌を育てている味噌屋さんの味噌は1年半~3年ほど発酵・熟成させているもの多いようです。
ですが、自宅で作る場合は待ちきれないので1年くらいで食べはじめてしまいます。
豆味噌を仕込む機会がある方は、ぜひ1年半ほど寝かせてからいただいて欲しいのですが、仕込みから1年ほどでも香りが高くおいしい豆味噌に育っています。米味噌や麦味噌にはない奥深さを味わえるのが豆味噌です。
当サイト企画の豆味噌作りご興味持ってくださっている方もとても多いようでしたので、ぜひ次回の参考にしていただけたら嬉しいです。
豆味噌の完成まで待てないという方は・・・
豆味噌の完成まで待てない、豆味噌を食べてみたいという方は、ぜひインターネットで探して購入してみてください。
さまざまな味噌屋さんの豆味噌が販売されていますので、いろいろと試して味比べするのも楽しいと思います。
豆味噌購入の参考に
メーカーも量も違うものをご紹介しましたが、豆味噌を食べたことのない方は少量のものから購入し試してみるといいと思います。一度食べてみると豆味噌の魅力にはまってしまう方も多いので、ご自分の必要な量に合わせて選んだり、好きな味噌屋さんを見つけたりと楽しんでみてください。
多くの方に「豆味噌」の魅力が伝わると嬉しいです。
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トップ写真=photoAC
本文写真=pixabay, 著者撮影