私たちは1日のうち、約3分の1の時間を眠って過ごします。
睡眠は健康を支える大事な柱の1つであり、誰にとっても大切なことです。
ですが、今「眠りが浅い」「寝つきが悪い」など睡眠の悩みを抱えている方は、非常に多いですよね。
また、昼間なんとなくぼーっとする、気分がすっきりしない、些細なことでいらいらしてしまうという方も…
そこで、睡眠時間を確保することのメリットや、眠れない夜から卒業し、快眠を得るための方法を順にご紹介したいと思います。
目次
質のよい睡眠とは?
まず「良質な睡眠」「快眠」とはどのような睡眠を指すのでしょう。
それは個人が「ぐっすり眠れた」とか「心地よく眠れた」など、睡眠に満足していて、活動時に支障がない状態をいいます。
では、どれくらいの長さが必要なのでしょうか。
例えば、厚生労働省の『健康づくりのための睡眠ガイド2023』で推奨されている睡眠時間の場合、個人差はありますが目安として
- 成人:6時間以上
- 小学生:9~12時間以上
- 中学高校生:8~10時間
- 高齢者:床上時間が8時間以上とならないようにする(健康リスクを考慮し)
となっています。
必要な睡眠時間は、年齢やその人の体質、その時の状態、日中の活動量や季節などによっても変わりますが、結局のところはやはり、本人が満足していればいいということです。
例えば、朝型と夜型は遺伝子で決まっているそうです。
また、年齢によって睡眠時間が変わるのは、年齢によってホルモンの分泌量が変化するためだそうです。
平均的な睡眠時間は7〜8時間といわれますが、短い睡眠でも満足できるショートスリーパーの人や、10時間以上必要なロングスリーパーの人もいます。
このように、必要な睡眠時間は人それぞれです。
ですが、忙しい方の中には休日に寝溜めして日頃の睡眠不足を解消しよう、と試みる方はいませんか?
そうすると夜に眠れなくなったり、時差ぼけ状態のように朝がつらかったり、昼間眠くなったりという問題が生じてしまうこともあります。
このように、睡眠に関する悩みがある場合、どうやって解決したらいいのか、睡眠の仕組みを知ると、解決するヒントが見つかるかもしれません。
では早速、順番にみていきましょう。
そもそもなぜ、眠くなるのか
なぜ、私たちは眠くなるのか?
そこには、「恒常性維持機構」と「概日リズム」が関わっています。
恒常性維持機構とは、生命維持のために体の状態を常に一定に保とうとする仕組みのことです。
例えば、体温が上がったら汗をかいて体温を下げ、体温が下がれば体を震わせ体温を上げるように調節します。
のどが渇いたら水分を摂って体内の水分量を調節します。
そして長く起きていれば眠くなり、眠れば眠気はなくなります。
眠気は、起きていた時間や寝ていた長さによるので、長い昼寝や朝あまりに遅く起きると、夜に眠りにくくなってしまいますよね。
概日リズム(体内時計)は、概(おおむ)ね1日のリズムということです。
私たち多くの動物は、朝になると目覚め、夜になると眠くなります。
他にも、深部体温やさまざまなホルモン、血圧や心拍数などもこのリズムで変動していて、時間で決まっています。
恒常性維持機構の眠くなったタイミングと、概日リズムによる睡眠のタイミングがうまく合うと、よく眠れるというわけです。
概日リズムは時間で決まっているので、概日リズムの睡眠のタイミングに、恒常性維持機構の眠気が溜まったタイミングが合うようにすると、眠りやすくなります。
このように、眠りたい時間までになるべく眠気を溜めておくということが重要です。
レム睡眠とノンレム睡眠
上記では、1日の中での睡眠リズムについてお話しましたが、睡眠そのものにもリズムがあります。
そのリズムを「睡眠周期」といい、この周期を作っているのが「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」です。
レム睡眠とは、Rapid Eye Movement(球速眼球運動)の略で、眼球が動いている状態。
レム睡眠時は、筋肉が緩んで体は休んでいますが、脳は起きていています。
それどころか脳の中には、私たちが目覚めているときよりも活発に動いているところがあるそうです。
一方ノンレム(Non Rapid Eye Movement)睡眠時は、体も脳も休んでいます。
眼球も動かず、体温や呼吸、血圧も下がっていきます。
ノンレム睡眠は、脳波の違いによって、深さのステージが1〜4(または1〜3)までに分かれていて、数字が大きくなるほど深い眠りとされています。
私たちが眠り始めると、まずステージ1、2の浅いノンレム睡眠がやってきて、続いて3や4の深いノンレム睡眠が訪れ、再びステージ2、1へと戻り、つぎにレム睡眠が訪れます。
これを1つの睡眠周期として、一晩のうちに4〜5周期が繰り返されます。
1つの周期は約90分です。
これは人によって変わりますし、その時々によっても変わるので、あくまで目安です。
そして、睡眠周期は一晩の睡眠の中で、まったく同じようにくり返されているというわけではありません。
ノンレム睡眠では、ステージ3〜4の特に深いノンレム睡眠(徐波睡眠)までの深さに達するものは、眠りはじめの約3時間、つまり約2周期までがほとんど。
目覚めが近くなるにつれ、徐々にステージ1や2の浅いノンレム睡眠が多くなっていきます。
レム睡眠では、(はじめのほうの睡眠周期よりも)目覚めに近づくにしたがって、1つの睡眠周期中におけるレム睡眠の割合が多くなっていきます。
このように、睡眠中は異なる2種類の睡眠の質を繰り返しながら、私たちがしっかり活動できるように準備がされているのです。
そして「熟睡できた」と実感するには、レム睡眠とノンレム睡眠、どちらもきちんととることが大切。中でも、はじめの約3時間のノンレム睡眠の深さが鍵になります。
睡眠には、長さも大切ですが、その深さも重要なのです。
では、一体睡眠中に私たちの身体ではどのようなことがおこなわれているのか、も見ていきたいと思います。
睡眠中に何がおこなわれているのか
太古の昔、まだオゾン層がなかった頃は、強い紫外線が生命体の子孫繁栄を阻んでいました。そこで原始の生命体は、日中は紫外線から逃れるために水中で活動し、夜は活動を最低限にし、傷ついた体の修復に集中する時間として過ごしていました。
つまり、日中活動しているときにはできないことをおこなう時間として、睡眠を利用しているわけです。
例えば、筋肉や脳を休ませること、記憶の整理や定着、傷ついた細胞の修復や再生、体内の老廃物や毒素の除去、さまざまなホルモンの分泌などです。
きちんと眠るといい理由
このように、睡眠中に行われていることはたくさんありますが、その中からいくつか私たちにとって「嬉しいこと」というポイントで、きちんと眠るといい理由についてお伝えしたいと思います。
①いくつになってもスムーズなターンオーバー
睡眠中には、ケガや内臓の修復などがおこなわれていますが、その中で、「皮膚」についてご紹介したいと思います。
私たちの皮膚は絶え間なく新しい細胞に生まれ変わっています。これを「新陳代謝」とか「ターンオーバー」と呼びます。
皮膚は外側から「表皮」「真皮」「皮下組織」の3層構造になっていて、「表皮」は外側から「角質層」「顆粒層」「有棘層(ゆうきょくそう)」「基底層」の4層構造になっています。
表皮は、皮膚の潤いを保ち、外部からのウイルスや細菌の侵入を防いだり、紫外線や化学物質などの刺激から守ってくれる役割があるため、このような構造になっているのですね。
表皮の一番内側にある基底層では、絶えず新しい細胞が生まれ、徐々に外側の角質層へと押し上げられていき、角質層で古くなると垢やフケとしてはがれ落ちます。
ターンオーバーの周期は約28日ですが、年齢を重ねると徐々に長くなっていきます。
このターンオーバーが乱れる原因には、季節やストレスなどさまざまありますが、睡眠不足もその一つです。
実際に「ぐっすり眠った朝は、肌の調子がいい」と感じたことのある方は多いかもしれません。
これは睡眠中に分泌される「成長ホルモン」のおかげです。
ホルモンとは、内分泌腺で作られ、情報を伝達している化学物質です。
私たちの健康のため、体のさまざまな機能を調節しています。
成長ホルモンは、それらのホルモンのうちの1つで、脳の下垂体から分泌されるホルモン。主な働きは、骨や筋肉の成長、細胞の修復やターンオーバー、疲労回復、代謝などを促すことです。
子どもが成長するときにはもちろん重要なホルモンですが、私たち大人にとっても大切な働きをしてくれています。
成長や健康にとって大切な働きをしている成長ホルモンのほとんどが分泌されるのが、眠りはじめてから約3時間後までの、特に深いノンレム睡眠である徐波睡眠中です。
ここでも、睡眠の深さの大切さが分かりますね。
いくつになってもターンオーバーをスムーズにおこなえる肌を保つためにも、良質な睡眠を心がけたいものです。
②きちんと眠って、太りにくい体質に
睡眠時間は太りやすさにも関係します。
寝ている時間が長いと、動かない時間が長いので太りやすいと思われるかもしれませんが、実はその逆で、睡眠時間が短いほうが太りやすい傾向にあるそうです。
それには食欲を調整する2つのホルモン「レプチン」と「グレリン」が関連しています。
レプチンは食欲を抑えるホルモンで、グレリンは空腹感をもたらすホルモンです。
睡眠不足になると、食欲を促すグレリンの分泌が増え、食欲を和らげるレプチンの分泌が減ります。
そのため食欲を抑えられなくなってしまいます。
このように、例えば成長ホルモンや、グレリン、レプチンなどのホルモンのいくつかは、睡眠と関係しています。
ホルモンは健康を保つために大切な物質。
睡眠不足が続くと心身に影響を与えてしまうということです。
ですが他にも、睡眠不足が体重増加につながる理由として、日中に眠いため運動不足になることや、長時間起きていると食べる機会が増える、などもあるかもしれません。
太りにくい体質のためにも、心身の健康を保つためにも、睡眠はきちんととるようにしましょう。
③きちんと眠ってパフォーマンスアップ
私たちは日頃から、さまざまな情報を得ています。
仕事や勉強をしていて得る情報や、本を読んだりテレビやSNSを通じて得る情報、人と接することで得る情報もあります。
また、何気なく入ってくる情報もたくさんあります。
ですが、中には覚えておく必要のないものもあれば、例えばテスト前などで覚えておきたいこともあるでしょう。ではせっかく覚えたことを定着させるにはどうしたらよいのでしょうか。
それは、きちんと眠ること!
なぜかというと、この記憶の整理と定着に、レム睡眠とノンレム睡眠が関係しているからです。
具体的には、残さなくてもよい情報の消去は、ノンレム睡眠でも特に深い徐波睡眠中におこなわれるそうです。
そして、記憶の定着にはノンレム睡眠が重要だそうですが、レム睡眠も、一時的な記憶の定着に関与しているそうです。
ほかにも、学習した情報が鮮明なうちに眠ったほうが、記憶の定着には効果的だとか、十分な睡眠で身体機能が向上したという実験もあります。
では、記憶の整理と定着に必要な睡眠とは一体どのくらいなのか?
それは、ノンレム睡眠からレム睡眠までの約90分を5周期くり返した、約7時間30分だそうです。
ここでも、睡眠時間の長さと深さの大切さが分かります。
大事な用事や試験があるときは、あわてて徹夜で準備をするよりも、しっかり眠ったほうがパフォーマンスが上がるということです。
質の良い睡眠のために心掛けたいこと
できる限り睡眠不足にならないよう、日頃の生活習慣を見直したり、生活のリズムを崩しすぎないことが大切です。
ですが、質の良い睡眠のために、他にも何かできることはあるのでしょうか。
具体的にいくつか例を取り上げてみたいと思います。
① 朝日を浴びる
概日リズムは、概ね1日のリズムとお話しましたが、実は私たちのリズムは24時間ではありません。
個人差がありますが、平均で約24時間10分だそうです。
ですから、このままでは外の世界との時間がどんどんずれていってしまいます。
このずれを修正してくれるのが、光です。
そのため起きたらすぐに、カーテンを開けて朝日を感じるのがおすすめ。
体内時計が24時間周期にリセットされます。そうすると、これが時差ぼけ状態の解消につながるというわけです。
では、なぜ睡眠に光が影響するのでしょう。
これには、メラトニンとセロトニンという2つの物質が関係しています。
良質な睡眠の鍵になる2つの物質
メラトニンは、睡眠を促すホルモンで、脳の松果体から夜間に分泌されます。
朝、光を浴びて、目の網膜で受け取ってから約14~16時間後の夜に分泌が増加するホルモンです。
また、光を感じることでメラトニンの分泌が止まり、次にセロトニンの分泌が活発になります。
セロトニンとは、脳内で生成される神経伝達物質(神経細胞間で情報の伝達をする化学物質)で、気分や感情に大きな影響を与えています。
「幸せホルモン」と呼ばれ、精神を安定させ、ストレスから私たちを守ってくれる役割も担ってくれています。
良質な睡眠にとってセロトニンの分泌が活発になるといい理由は、メラトニンはセロトニンをもとにして、夜の分泌量が増えるためです。
お天気が良くない日でも、朝起きたらカーテンを開けて自然光を感じることで良質な睡眠に繋がるそう。
朝起きたらすぐに、カーテンを開けて朝日を感じる習慣を取り入れてみてください。
② お風呂に浸かる
ぬるめのお湯に浸かってゆっくりすることで、筋肉がゆるみリラックスでき、副交感神経に刺激が入ります。
私たちの体は本来、昼間は交感神経が優位になり、夜は副交感神経が優位になります。ところが、現代社会ではストレスを感じやすい環境にあり、自律神経が乱れがちになります。
入浴は自律神経の乱れを整えるための手段の一つです。
副交感神経を優位にすることでリラックスでき、入眠しやすくなります。
ここで注意したいのは、のぼせるくらいの熱いお湯に長く浸からないこと。
交感神経が優位になってしまうので、逆効果です。
③ 食事のタイミング
お腹がいっぱいの状態で眠ることは避けましょう。
食べたすぐ後に眠ると、消化管は休むことができません。そのため、深い眠りにつくことができず、質のよくない睡眠へとつながります。
結果として目覚めも悪くなってしまいます。
ではどうしたらいいかというと、なるべく、眠る3〜4時間前までに夕食を終えること。そして夕食は3食のうちで一番軽くするのが理想的です。
揚げ物などの消化に時間がかかるものは夜は避け、消化力の一番強いお昼にいただくようにします。
睡眠をとる時間は、細胞の生まれ変わりなどの時間として、エネルギーをしっかり有効活用できるようにしたいですよね。
そしてそのために、寝る前のタバコ、アルコール、カフェインの摂取も控えましょう。
タバコは交感神経を優位にし、カフェインも入眠を妨げます。
アルコールは夜中に目覚めたり、睡眠の質を下げる原因になります。
④ 夜間にはできるだけ光を入れない
先程、光を感じることによって、メラトニンの分泌が止まるとお話しました。
つまり光には覚醒作用があるのです。
それは、目の網膜が受ける光の量によって脳の松果体が反応し、メラトニンの分泌量が決まるためです。光の量が減ってくることによって、メラトニンの分泌が開始されます。
そのため、寝る前にテレビやスマートフォンなどを見ることはおすすめできません。
これらの強い光はメラトニンの分泌を減らし、さらに交感神経を刺激します。
夜間は室内の照明も落とし気味にし、環境から寝るための準備を整えましょう。
⑤ 呼吸
寝る前のテレビなどを見ないほうがいい理由は他にもあります。
例えば、寝る前にテレビやSNSを見ていて、刺激的な情報にイライラしたり、不安になったり、ネットショッピングに夢中になって、眠れなくなった経験はありませんか?
もしくは、人に言われたことをくよくよ考えてしまったり、気にすることで不安や悩みが大きくなって眠れなくなった経験がある方もいるかもしれません。
そのような時は、寝る前の習慣として、深い呼吸をしてみましょう。
仰向けの状態で構いません。鼻からゆっくりと長く息を吸い込み、お腹、胸、鎖骨の順に空気を送り込みます。
そしてゆっくりと鼻から息を吐き、お腹、胸、鎖骨の順に空気を抜き、これをくり返します。
とくに、吐く息を意識してみましょう。
右手をお腹の上に、左手を鎖骨の上に添えると、空気の流れを意識しやすくなります。
マインドリセットにもなり、副交感神経を優位にするのでリラックスできます。
仕事や家事、勉強や趣味などと忙しい私たちは、ついつい睡眠時間を削ってしまいがちです。
どうしてもその時にやらなければならないことも時にはあると思いますし、仕方のないことだと思います。
ですが、本来であれば、私たちは昼間活動して、夜は眠るという自然のリズムに沿って生活するようにできています。
睡眠は回復と準備の時間です。
昼間活動的に過ごしたら、夜はしっかり休み、睡眠を取ることが大切です。
はじめにもお伝えしましたが、良質な睡眠とは人それぞれです。
活動時に支障がなければいいのですが、長い間睡眠不足が続くと、病気のリスクが高まります。
ですので例えば、今日頑張ったら明日は早く眠れるように調整してみるとか、仕事柄不規則な生活になりがちな方は、できるだけ自分の心地いい方法を探して、自分にあったサイクルを見つけてみるなど、工夫してみましょう。
そして、睡眠時間を削ってまでしなくてもいいことは、次の日に回してみるのはいかがでしょうか。
それでももし、不眠が解消されないとか、きちんと眠っているつもりでも活動時に支障がある場合は、専門家に相談しましょう。
毎日を気持ちよく過ごすためにも、できるだけ質のいい睡眠を取れるように心掛けてみてください。
参考文献:
『寝るだけ美人!上手な眠りがキレイをつくる 美肌、健康、ダイエットに効く26の習慣』梶村尚史 こう書房
『心と体が生まれ変わる最高の睡眠 本当に自分の眠りを変えたい人のために』渡辺範雄 成美堂出版
『文系のためのめっちゃやさしい睡眠 (東京大学の先生伝授)』 林悠 ニュートンプレス
『薬を使わずにぐっすり眠る方法 睡眠障害を解消する簡単な6つのルール』 大谷憲 日東書院本社
『健康づくりのための睡眠ガイド2023』厚生労働省 001293141.pdf (mhlw.go.jp)
『がまんできない!皮膚のかゆみを解消する ただしい知識とスキンケア』小林美咲 日東書院本社